自分の価値 the answer

人と人が手を取り合うのは、基本的に相手に対して何らかの価値を見いだしているからと考えられる。
ここでいう「価値」とは、自分に対して何らかの利益をもたらしてくれるものと解せばいいだろうか。
「利益」とは、金銭などの経済的な利益というよりは、情緒的なもの、もしくは生物としての利益(ここでは、「生きる」「増える」上で有利になる事象を「生物としての利益」として扱う。)のことを言うとよさそうだ。

それが崩れたら、相手はもう自分の側にはいてくれなくなる。
例えば、自分の配偶者が亡くなったとき、母親に対しては子供から同居のオファーが来ることはあっても、父親に対してはあんまりない。例えば、メーカーが一度落ち目になると、彼の一番の得意先ですら、仕入れた商品の代金の支払いを渋るようになる。また、品質上の欠陥、仕様書の規格に合っていないこと、納期の遅れ云々、このうな苦情を訴えるようになる。例えば、小型の淡水生物であるヒドラの一種は、緑藻類と共生関係にあるけど、ヒドラが弱ってくると、藻類はヒドラとの関係を見限って搾取を始める。同様に、ヤドカリとイソギンチャクの共生関係も、チスイコウモリの助け合いも「将来の利益」を見込んだ上での投資である。(このへん、文献からちょいちょいと引用した。俺が自分自身の言葉でチスイコウモリの生活について語れるわけないよね!)

路上に落ちている石は、誰かが「この石は綺麗だ!」と考えて拾えば、価値のあるものに変わる。
しかし、拾った人がその価値を見限ったとき、「ただの石」に戻れるだろうか?
「ただの石」以下のものになっている可能性は低くないだろう。
「ただの石」に戻れたとしても人間の幸福感の感じ方に、過去の自分との比較は避けられない。
「きれいな石」として扱われた日々と比べて、みじめさを感じずにはいられまい。

あるものから引き出される価値は、使い手次第だろう。
私にとっては「ただの石」かもしれないものも、別の人にとっては「きれいな、保存するに値する石」であるかもしれない。
価値が絶対的なものじゃないなら、そのものの価値は使い手の状況によっても変わるだろう。
例えば、漫画の価値は読み手に読まれる前と読まれたあとで読み手にとっての価値は大きく変わる。
もうひとつ、親密化について。知り合い→友達→恋人→配偶者という感じに自分と相手の関係が変わっていくケースを想定しよう。
友達に求めるものは「一緒にいて楽しいこと」。
恋人に求めるものは「一緒にいて楽しいことに加えて、ドキドキすること」「価値観が似てる」こと。
配偶者に求めるものは「よき父親であること」 例えば家事を手伝ってくれたり、家族サービスをしてくれたり、たくさん稼ぐことかしら。正直よくわからないので適当に書いた。ただ、「自分が必要なもの」は時々刻々と変化していく。
相手のニーズが変わったときに、それを満たしていなかったら「ただの石」に成り下がる。
「ずっと友達」という関係であるとしても、過去の自分と未来の自分は別人なので、それに適応することが求められる。あとは、年齢相応の振る舞いを求められたりとかね。「年下をけなすなよ。」とか「●●歳になってあんなんじゃ…」とか、そういう会話ってあるよね。
「変化」に適応できず、価値を提供できなくなったとき、人も道具も処分の憂き目を見る。
何もしてないだけで、「価値」は摩耗していくものじゃないだろうか。そもそも人間25を過ぎれば、あとは基本的に衰えていくしね!成長することを求められることのなんという恐ろしさよ。

「自分の価値を低く見積もらないで」って自己啓発書とかでよく見かけるし、私が尊敬する人も同じようなことを言う。評価してもらえるのは確かにうれしい。
ただ、人からの評価ってあくまで「現在の価値」もしくは「オープンにされた情報に基づいて見積もられた将来の価値」に過ぎないと思う。開示された情報の裏には「開示されていない情報」があるわけで。
「開示されてない情報」によって隔たれた自分の真価と、相手によって見積もられた価値のギャップが、時に付き合ってみて、または結婚してみて「惚れ直した」または「こんなはずじゃなかった」という事象を生み出す。
前者なら万々歳なので、後者についてもう少し見てみよう。
実は借金がある、実は浮気性だ、実はとんでもない怠け者だ、実は厄介な病気がある、家庭環境に何らかのアキレス腱があるetc. それまで付き合ってきた相手からはわからなかったけど、これからの関係を考える上で意思決定に重大な影響をもたらす可能性が高い事実が隠れている。当たり前の生活の中から見つかったものは、宝石じゃなくて不発弾でした。
「一つ一つ、向きあっていけばいいじゃないか」っていうけど、不発弾は、ゾンビのように払っても払っても湧いてくる。受験、就活、激務、増える体重、なくなる金、出世競争、振りかかる欲求、相対的剥奪、荒れる肌、市場に晒されるプレッシャー、無くなってく髪の毛、失われる健康、ヤキが回る、 etc.
俺達の戦いは、まだ始まったばかりだ。そこに健康も病んでるもない。心が健康だろうが病んでようが、腐っていくことだけは厳然たる事実である。

主な参考資料とか、発想やネタをパクった元とか

上野千鶴子『男おひとりさま道』法研 多分4章。。
アクセルロッド『付き合い方の科学』ミネルヴァ書房 2章と5章。
「スーパーリアルRPG」 第73章 http://sinri.net/n/srrpg.htm
会計法規集の「概念フレームワーク」「減損基準」とか。
あとは、マースタインのSVR理論とかそのへん。